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前橋地方裁判所太田支部 昭和53年(わ)195号 判決

主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、法定の除外事由がないのに、東京都、神奈川県、埼玉県、群馬県の各知事および横浜市、横須賀市の各市長の許可を受けないで、業として、昭和五一年一月頃から昭和五二年六月一〇日頃までの間、合計三八六回にわたり、別表第一記載のとおり、東京都練馬区高松六丁目一番一五号高松タイヤ商会ほか三二箇所から、別表第二記載のとおり、群馬県邑楽郡明和村大字新里九一ー五および六先宅地ほか四箇所まで、産業廃棄物である廃プラスチツク類(廃タイヤ)合計約一、五四〇トン(約一五四、〇〇〇本)を収集して運搬した

第二、かねて妻石村シヅ子、実弟石村裕司、義兄町田弥市から管理一切を一任されていた右三名ら所有の農地に自己の収集した前記廃タイヤを保管し、もつて農地を右廃タイヤの置場に転用しようと考え、法定の除外事由がなく、かつ群馬県知事の許可を受けないで、

一、昭和五四年二月頃から同年三月頃までの間、右石村シヅ子所有にかかる群馬県邑楽郡明和村大字田島五一番三、田四七六平方メートルに前記廃タイヤ約二五、〇〇〇本を野積みにし、

二、同年三月頃から同年五月頃までの間、

(一)、前記石村裕司所有にかかる

1、前同県同郡同村大字新里七三七番、畑五六五平方メートル

2、同所七三九番一、田七一〇平方メートル

3、同番二、田四〇六平方メートル

4、同番三、田一四〇平方メートル

(二)、前記町田弥市所有にかかる

1、同所七三八番一、田九四三平方メートル

2、同番二、田三一三平方メートル

に前記廃タイヤ合計約二五、〇〇〇本を野積みにし、

もつて、右の農地をいずれも農地以外のものに転用した

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

一、判示第一の所為 廃棄物の処理及び清掃に関する法律二五条一号一四条一項

一、判示第二の所為 いずれも農地法九二条、四条一項

一、(刑種の選択) 所定刑中いずれも懲役刑選択

一、(併合加重) 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に加重)、

一、(刑の執行猶予) 刑法二五条一項

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の判示第一、第二の各所為は、いずれも廃タイヤの再生利用の目的のためになされたものであるから、形式的に法規に違反していても、実質的には行為の目的の故に違法性を欠くものである旨主張する。

しかしながら、弁護人の右主張は到底採用できない。

すなわち、前掲各証拠によれば、そもそも被告人の本件各行為がすべて廃タイヤの再生利用の目的でなされたとの弁護人の主張自体疑問があり、直ちには首肯し難いうえ、仮にその目的が弁護人の主張どおりであつたとしても、(一)、産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律は、「廃棄物を適正に処理し、及び生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする(同法一条)」ものであり、右目的にもとづき、同法一四条は、産業廃棄物処理業を行う者について必要な規制を加え、産業廃棄物処理業者の質を一定水準以上に保つことによつて、産業廃棄物の処理が適正に行われるようにし、その不適正な処理による環境汚染を防止する見地から都道府県知事らの許可を要するものとしているのであつて、以上の同法の目的および同条の趣旨に鑑みると、同条に違反し、無許可でなされた行為が社会的に価値のある有意義な目的のためになされたとの一事をもつて、当該行為の違法性が失われるとは論じ難く、(なお、同法七条一項但書および一四条一項但書にいう「再生利用の目的となる」廃棄物とは、その物の性質上、通常再生利用されるものという意味であつて、このような廃棄物を取り扱う業者は許可の対象にならないという規定であり、再生利用を目的として廃棄物を取り扱う業者が許可の対象とならないという規定ではないから、本件廃タイヤの如く、その性質上もつぱら再生利用の目的となる産業廃棄物とはいえない廃棄物の場合には一四条但書の適用はないものである)(二)、次に、農地法は、「土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整すること」をその目的の一つとし(同法一条)、右目的をうけて、同法四条は、優良な農地を確保して農業生産力を維持し農業経営の安定を図ることをその趣旨として、農業と農業外の利用関係を調整するために設けられたもので、住宅、工場等の無秩序な立地による農業環境の悪化を防止して、農業上の土地利用がより良い環境のもとで合理的に行われるようにすることをねらいとしているものと考えられることに照らすと、同法四条に違反して無許可でなされた農地の転用行為が社会的に価値のある有意義な目的のためになされたからといつて、当該行為が違法性を欠くとは認め難いからである。

よつて、主文のとおり判決する。

別表第一

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表第二

1 群馬県邑楽郡明和村大字新里九一―五および六、宅地(元被告人経営の川俣化成工場跡地)

2 同県同郡大字梅原一、一一一番、同所一、一一四番一ないし三、畑(石村シヅ子所有地)

3 埼玉県北〓飾郡杉戸町大字佐々エ門一、六〇五、宅地(松田克己所有地)

4 群馬県邑楽郡明和村大字田島五一番三、田(石村シヅ子所有地)

5 同県同郡同村大字新里七三七番畑、同所七三九番一ないし三、田(石村裕司所有地)

同所七三八番一および二、田(町田弥市所有地)

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